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飽和脂肪酸が体に与える影響と摂り過ぎを抑える方法とは?

医療編集チーム 医師
公開日
2024.12.24
最終更新日
2024.12.24
「美味しいもの」の中には、多くの糖質と脂質が含まれます。脂質の成分である「飽和脂肪酸」は摂り過ぎると、様々なリスクに晒される注意しなければならない栄養素です。
「美味しいもの」の中には、多くの糖質と脂質が含まれます。脂質の成分である「飽和脂肪酸」は摂り過ぎると、様々なリスクに晒される注意しなければならない栄養素です。
今回の記事では、飽和脂肪酸を摂り過ぎた場合のリスクや、摂り過ぎを抑えるための方法について解説します。
飽和脂肪酸の基本情報について解説!
飽和脂肪酸は体を動かすための重要なエネルギー供給源です。ただその反面、摂り過ぎると、体に悪影響を及ぼしかねない注意が必要な栄養素です。
飽和脂肪酸とは
3大栄養素の一つ「脂質」は細胞膜の主な構成成分であり、エネルギー産生において重要な栄養素です。
脂質を構成する成分が「脂肪酸」であり、構造の違いから、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類することができます(1)。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違い
脂肪酸の構造の中で、炭素間の二重構造がないものを「飽和脂肪酸」、1個存在するものを「一価不飽和脂肪酸」、2個以上存在するものを「多価不飽和脂肪酸」と呼びます。
さらに、多価不飽和脂肪酸のうち、端から3番目に二重構造が存在する「n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)」、6番目に存在する「n-6系不飽和脂肪酸(オメガ6脂肪酸)」に分類できます(1)。
不飽和脂肪酸であるオメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸は体内で合成できないため、食事から摂取しなければならない「必須脂肪酸」です。
これに対し、飽和脂肪酸は体内で炭水化物から合成できるため、必須脂肪酸ではありません(1)。
飽和脂肪酸は牛、豚や鶏など肉類の脂に多く含まれており、不飽和脂肪酸は魚類に豊富であるなど、その分布にも違いがあります。
飽和脂肪酸の体内での働き
飽和脂肪酸は細胞膜やエネルギーの生成の他、コレステロールの生合成にも関わっています。
飽和脂肪酸が不足してしまうと、エネルギー不足で疲れやすくなったり、血管などの細胞がもろくなって、脳出血や脳卒中を引き起こすリスクが高くなります(2)。
飽和脂肪酸の適切な摂取量は?
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」により、飽和脂肪酸の適切な摂取量は、年齢と性別に基づいて、以下の表1のように定められています。
表1.飽和脂肪酸の食事摂取基準(1)
性別 |
男性 |
女性 |
年齢 |
(g/日) |
(g/日) |
18~29歳 |
21.6 |
16.5 |
30~49歳 |
18.6 |
16.6 |
50~64歳 |
18.5 |
16.1 |
65~74歳 |
17.1 |
15.6 |
75歳以上 |
15.0 |
13.0 |
飽和脂肪酸の目標摂取量は、日本人が現在摂取している飽和脂肪酸量の中央値(数値を小さい順から並べた時の真ん中の値)を目標値とすることとされています。
なお、小児の目標摂取量については、安全性に関する研究が不十分であることから、設定が見送られました。
飽和脂肪酸の摂り過ぎが原因で起こる病気とは?
食生活の欧米化が進み、飽和脂肪酸を摂り過ぎてしまう傾向にあります。摂り過ぎるとどのような病気のリスクがあるのでしょうか。
飽和脂肪酸の摂り過ぎで起こる病気について、4つ解説していきます。
1. 肥満症
「肥満」とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI※)が25以上のもの」と定義されています。
肥満は、脂質異常症、糖尿病や高血圧などの生活習慣病のもととなるため、健康づくりにおいて最重要課題と位置付けられています(3)。
また、「肥満症」は「肥満に関連する脂質異常症などの健康障害を伴う、もしくはこれから起こることが予測される場合、医学的に減量する必要があると判断される病態」をさします。
肥満症の診断は、BMIだけでなく、血圧や血糖値などの基準値を超えているかでも判断されます(4)。
食生活の欧米化
原因の一つが「飽和脂肪酸の摂り過ぎ」です。食生活の欧米化に伴い、日本人の肉類の摂取量が以前よりも増加しています。
肉類、特に脂身に多く含まれているのが飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は必要以上に摂取されると、余剰分は脂肪として体に蓄えられます。
炭水化物の過剰摂取
さらに、「炭水化物の過剰摂取」も肥満症を引き起こす原因です。体に必要な糖分以上に炭水化物を摂取すると、余分な炭水化物は飽和脂肪酸に変換されます。
すると、余剰になった飽和脂肪酸は脂肪として体に蓄積される、という悪循環を引き起こすのです(1)。
運動不足
飽和脂肪酸はエネルギーの供給源であるため、摂取したエネルギー以上に消費できれば脂肪にはなりません。つまり、運動して消費エネルギーを増やすことが重要です。
世界的にも運動不足が深刻化していますが、肥満症を引き起こさないためにも、運動習慣を見直しつつ、飽和脂肪酸を摂り過ぎないようにしましょう。
※BMI(Body Mass Index)=「体重(kg)」÷「身長(m)²」
脂質異常症
血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を「脂質異常症」といいます。
脂質の値の基準となるのが、LDLコレステロール(いわゆる、悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる、善玉コレステロール)とトリグリセリド(中性脂肪)の血中濃度です(5)。
脂質異常症の診断基準は以下の通りです。
-
LDLコレステロール:140mg/dL以上
-
HDLコレステロール:40mg/dL未満
-
トリグリセリド:150mg/dL(空腹時)
LDLコレステロールが上昇する最大の要因はやはり「飽和脂肪酸の過剰摂取」です。飽和脂肪酸を摂り過ぎると、肝臓でのLDLコレステロール合成が増加し、動脈硬化などの心臓疾患のリスクを高めます(6)。
また、飽和脂肪酸の過剰摂取による内臓脂肪の増加に伴い、脂肪細胞から「アディポカイン」と呼ばれる生理活性たんぱく質の分泌・合成が増加します。
アディポカインのうちの1つである「TNFα(※)」はトリグリセリドを分解する酵素「LPL(※)」の働きを抑制するたんぱく質です。
内臓脂肪の増加によってTNFαの分泌も増加し、トリグリセリドの分解が抑制されることにより、トリグリセリドの濃度が増加し、脂質異常症を悪化させることも知られています(7)。
※TNFα(腫瘍壊死因子):腫瘍細胞に壊死を誘導する因子。
※LPL(リポたんぱくリパーゼ):トリグリセリドを分解して、脂肪酸を作り出す酵素。
動脈硬化疾患(心臓・脳)
飽和脂肪酸の過剰摂取によって、血中のLDLコレステロールやトリグリセリドが増加すると、動脈硬化のリスクが高まります。
動脈は心臓から全身に血液を送る大切な血管です。本来はしなやかですが、血中LDLコレステロールが過剰になると、血管壁に潜り込み、少しずつコブのような塊(プラークといいます)を形成していきます。
プラークが大きくなって、動脈が厚く硬くなる病気のことを「動脈硬化」といいます(8)。
プラークが大きくなると、血管を狭め、血液の循環が悪くなり、体中に酸素が行き渡らなくなるため、狭心症や一過性虚血性発作を起こします。
また、プラークが何らかの拍子で剥がれて血流に乗り、心臓や脳の細い血管を塞いでしまう病気が、心筋梗塞や脳梗塞です。
血管がつまると、心臓や脳に酸素が行き渡らなくなり、細胞が壊死してしまうため、命に関わります。
糖尿病
「糖尿病」は、血糖値を下げて一定水準を維持する働きを持つホルモン「インスリン」がうまく働かず、血糖値が慢性的に高くなる病気です。
血糖が高い状態が続くと、目や腎臓、手や足などの神経にも影響を与えます。
インスリンに対する感受性が低下する原因は<体の脂肪>です。
ある研究によると、体脂肪量が多いほど、インスリンに対して抵抗性を示す、つまり、インスリンの効果が十分発揮されず、血糖値を下げることができないことが示されました。
これは、脂肪が多いほど、脂肪細胞からインスリン抵抗性を示す「アディポカイン」の分泌が増加することが原因であると考えられています。
また、本研究では乳類によってインスリン抵抗性を増加させるのに対し、野菜類の摂取により、インスリン抵抗性を低減させることも明らかとなっています(9)。
インスリン抵抗性を予防するためにも、野菜類を積極的に摂取するような食事療法が推奨されています。
飽和脂肪酸が多く含まれる食品
では、どのような食品に飽和脂肪酸が多く含まれているのでしょうか。
「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとにご紹介します(10)。
.肉類
牛肉と豚肉の脂身に多く含まれています。鶏肉は特に、皮の部分に多いです。
これに対し、鹿肉やイノシシ肉などの「ジビエ」や羊肉は、飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。
.乳製品
乳製品の中でも、バター、生クリームやチーズ類に多く含まれています。いずれも動物性の脂肪分から作られているため、飽和脂肪酸が多いです。
バターの代わりに、植物性の脂肪分からつくられているマーガリンに変えればいいのか、というとそうでもありません。
マーガリンにも「トランス脂肪酸」とよばれる心臓疾患のリスクを高める脂肪酸が含まれているため、注意が必要です(11)。
.油脂類
油脂類には極めて多くの飽和脂肪酸が含まれています。特に多く含まれているのが、ココナッツオイル(やし油)やパーム油です。
植物性の油にもかかわらず、その多くが飽和脂肪酸なので、注意しましょう。
また、豚の脂肪分からつくられるラードも飽和脂肪酸が多く含まれます。
飽和脂肪酸の過剰摂取を抑える方法
飽和脂肪酸の摂取を抑えるにはどのような方法があるのでしょうか。「食品の選び方」と「調理方法」という視点から解説していきます。
食品の選び方
飽和脂肪酸の摂取を控えるためには、食品の選び方が非常に重要です。選び方について、4点解説します。
1.肉よりも魚を選ぶ
肉類には飽和脂肪酸が多いですが、魚介類には不飽和脂肪酸が多く含まれています。メイン料理はできるだけ肉ではなく、魚を選びましょう。
不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸とは異なり、コレステロール値を下げる効果、心臓疾患のリスクを下げる効果が期待できます(12)。
2.脂身の少ない肉を選ぶ/調理前に脂身を取り除く
豚肉や牛肉は特に、脂身に飽和脂肪酸が多く含まれているため、商品を選ぶ時点で、できるだけ脂身の少ないものを選ぶとよいでしょう。
調理する際は、できるだけ脂身を削いでから行いましょう。
また、鶏肉を選ぶ際も、皮の部分は避けて、脂身の少ないささみや、皮の付いていないもも肉・むね肉を選ぶと飽和脂肪酸の摂取を減らすことができます。
3.動物性脂肪より植物性脂肪を選ぶ
動物性脂肪には多くの飽和脂肪酸が含まれています。料理で動物性脂肪であるバターを使う場合、植物性脂肪であるオリーブオイルやごま油で代用できないか、考えてみましょう。
ただし、上記の通り、植物性脂肪にも飽和脂肪酸が多く含まれているため、使い過ぎには注意が必要です。
4.牛乳やヨーグルトは無脂肪のものや豆乳に
牛乳やヨーグルトなどの乳製品にも少なからず飽和脂肪酸が含まれていますが、無脂肪の製品もあるので、そちらを選ぶといいでしょう。
また、牛乳を豆乳で代用することも一つの手段です。
豆乳には牛乳と同じくらいたんぱく質が豊富に含まれていますが、牛乳よりも低糖質・低脂肪・低カロリーなので、味に抵抗がなければ、変えてみてはいかがでしょうか。
生クリームも植物性脂肪でつくられたものを選ぶと飽和脂肪酸の摂取を減らすことができます。
調理方法
飽和脂肪酸を避けるためには、可能な限り、油を使って調理しないこと、もしくは、できるだけ少ない油で調理すること、これらを意識しなければなりません。
油の摂取を減らすための調理方法について、3点解説します。
1.「焼く・炒める」よりも「煮る/茹でる・蒸す」
「焼く・炒める」という調理にはどうしても油が必要です。
そんなときは、動物性脂肪であるバターやラードではなく、植物性脂肪であるオリーブオイルやごま油で代用することを検討しましょう。飽和脂肪酸の量を減らすことができます。
また、油を使わない調理方法「煮る/茹でる・蒸す」という選択肢も一つの手です。食材を高温で加熱すると、どうしても必要な栄養素が失われてしまいます。
煮たり蒸したりすることにより、食材の栄養素を保持することができます。
2.揚げ物は「素揚げ」か「ノンオイルフライヤー」
揚げ物をする場合は、油たっぷりではなく、油が少なくて済む「素揚げ」がいいでしょう。また、素揚げは食材に小麦粉や片栗粉をつける必要がありません。
余計な糖分を摂らなくていいことも素揚げのメリットです。
最近では、油を使わずに揚げ物ができる家電「ノンオイルフライヤー」もあります。手入れが簡単で、油の処理も必要ありません。高価なものが多いですが、健康を考えると、試す価値ありです。
3.網焼きで油を落とす
食材を焼く際、焼くための油のほかに、食材からも油が出てきます。これを回避する方法が「網焼き」です。
網焼きにすると、網目から食材から出る余分な油を落とすことができます。また、網焼きは遠赤外線効果によって、火が通りやすく、ふっくら仕上がるというメリットもあります。
日頃から飽和脂肪酸の摂取量を意識しよう
旧石器時代、ヒトは狩猟採集で生活していました。毎日食料が十分に得られる生活ではありません。そのため、ヒトの体は飢餓を生き抜くために、できるだけ多くのエネルギーを蓄えるよう進化してきました。
3大栄養素の中で、最もエネルギーが高いのが脂質であり、脂質は効率的にエネルギーを蓄える大切な仕組みなのです。
こうしてヒトは生き抜くことができました。しかし、現代社会でも、本能的に脂質を蓄えようとする意識が働いているため、脂っこいものや甘いものを美味しいと感じるのです。
飽和脂肪酸を摂り過ぎてしまうことは、本能的に仕方のないことです。しかし、過剰に摂取すると危険であることを今回解説してきました。
日頃の食材選びや調理方法を意識することで、飽和脂肪酸の摂取量に注意し、健康的な生活を心掛けましょう。
ヘルス医療編集チームは、医師や医療関連の専門家が集まり、最新の医療知識をわかりやすく、日常生活に役立つ形でお届けしています。
私たちの目標は、正しい医療情報をシンプルに伝え、皆さんが健康的な生活を実践できるようサポートすることです。

参考文献
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