2025/5/16

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リノール酸とは?体への影響や含まれる食品を解説

栄養編集チーム 管理栄養士

公開日

2025.05.16

最終更新日

2025.05.16

「リノール酸」という成分を知っていますか?1977年に健康に良いとする提言がアメリカで出たことから、日本でもブームが巻き起こったので、年齢が上の方にはなじみがあるかもしれません。

現在ではリノール酸の研究も進み、健康への効果だけでなく、懸念すべき点も判明しつつあります。

そこで、本記事ではリノール酸の基本的な知識、健康への効果と注意点、リノール酸を含む食品や上手な摂り方を解説します。

リノール酸を正しく活用して、健康な毎日を目指しましょう。

 

リノール酸とは何か?

まず、リノール酸に関する基本的なことを確認しましょう。どんな物質なのか、人体との関係、よく似た名前のリノレン酸との違いについて説明します。

リノール酸を知らない方はもちろん、聞いたことがある方も今一度、おさらいしましょう。

 

リノール酸は脂肪の仲間 

リノール酸は簡単に言ってしまうと脂肪の仲間で、オメガ6脂肪酸の一種です。脂肪は多くの脂肪酸で構成されており、構造の違いから飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分かれます。

飽和脂肪酸は主に動物に含まれ、不飽和脂肪酸は主に植物や魚に含まれます。

そして、さらに不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類され、多価不飽和脂肪酸はさらにn-3系とn-6系があるのです。(2) 

n-3系とn-6系は、それぞれオメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸と呼ばれることもあります。

他のオメガ6脂肪酸としては、アラキドン酸が挙げられます。

 

リノール酸は体内で合成できない必須脂肪酸 

リノール酸は必須脂肪酸の一種でもあります。脂肪酸は細胞膜を構成する脂質に必要な物質です。

しかし、一部の脂肪酸は体内で合成することが不可能、あるいは合成できても必要な量を賄えません。そのため、食べ物から摂取する必要があり、必須脂肪酸と呼ばれています。

リノール酸以外には、同じオメガ6脂肪酸に属するアラキドン酸、オメガ3脂肪酸に属するα-リノレン酸も必須脂肪酸です。(2)

 

リノレン酸との違い 

リノール酸と混同されがちな成分として、リノレン酸が挙げられます。リノレン酸も脂肪酸の一種ですが、リノール酸とは異なる部分があります。

まず、リノレン酸にはα-リノレン酸とγ-リノレン酸があります。ただ単に「リノレン酸」と言う場合、前者のα-リノレン酸を指すことが多いです。

α-リノレン酸はオメガ3脂肪酸の一種で、DHAやEPAを作る材料となります。しかし、体内で合成できないため、必須脂肪酸にも該当します。(3)

一方、γ-リノレン酸はオメガ6脂肪酸の一種で、体内でアラキドン酸に変換されます。(4)

 

リノール酸に期待される2つの効果 

ここからはリノール酸が体にもたらす良い影響について、解説していきます。ただし、リノール酸に関する評価は、時代を経て変わってきました。

現在でも、まだ研究データが十分ではなく、「健康に役立つ可能性がある」というレベルであることは理解しておくべきでしょう。

 

冠動脈疾患の予防 

日本人の食事摂取基準(2020年版)の脂質に関する各論では、複数の研究をまとめたメタアナリシスにより、リノール酸摂取が冠動脈疾患を予防する可能性が示唆されると記述されています。

また、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えることで、冠動脈疾患の発症率が低下することを示唆したとも記述されています。

しかし、一方で、オメガ6脂肪酸摂取と循環器疾患予防には関連がないとする研究結果も報告されています。(5)

 

肌をすこやかに保つ 

リノール酸は必須脂肪酸の1つで、不足すると皮膚炎を発症するので、肌をすこやかに保つためには欠かせない成分です。

しかし、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、日常生活を自由に営んでいる健康な日本人にはオメガ6脂肪酸の欠乏が原因と考えられる皮膚炎等の報告はないとされているので、欠乏症を心配する必要はないでしょう。

また、リノール酸は美白化粧品の有効成分として用いられることもあります。2001年に美白有効成分「リノール酸S」として、厚生労働省の承認を受けました。(6)

リノール酸は、メラニンを生成する酵素チロシナーゼを分解することで、美白有効成分として機能することが報告されています。(7)

  

リノール酸は体に悪い? 

リノール酸は、かつては健康に良いともてはやされましたが、近年では注意すべき点があることが分かってきました。

ここでは、リノール酸を大量摂取した場合の影響や、がんとの関連について説明します。

 

リノール酸の大量摂取には要注意 

リノール酸は必須脂肪酸の1つです。しかし、大量に摂取すれば、より健康に役立つというわけではありません。かつては高リノール酸油はコレステロールを低下させるとされていました。

しかし、1982年のMRFIT(8)では効果がないことが示され、1991年のHelsinki Businessmen Study(9)ではかえって心臓疾患が増えることが報告されました。

また、海外の研究結果を受けて、日本脂質栄養学会は2002年に「リノール酸摂取量の削減および油脂食品の表示改善を進める提言」を出しています。(10)

 

リノール酸には発がん性がある? 

リノール酸の摂り過ぎは、がんのリスクを高めるとの懸念が出たこともありましたが、現時点では明確なエビデンスはありません。

医薬基盤・健康・栄養研究所がまとめた素材情報データベースのリノール酸の項では、血中炎症マーカーや前立腺がんとの関連は見られないとされています。(11)

また、日本植物油協会によると、2010年版の日本人の食事摂取基準には、リノール酸とがん発症について否定的に記述され、さらに最新の2020年版ではがんとの関連についての記述がなくなったとされています。(12)

 

リノール酸を含む食品

リノール酸は体内で合成できない必須脂肪酸です。健康を維持するためには、食事を通して、リノール酸を摂らなければなりません。

かと言って摂り過ぎると、健康を害する可能性があります。

ここではリノール酸を含む食品をご紹介するので、適切な量のリノール酸を摂っていきましょう。

 

植物性油 

リノール酸は植物油に含まれます。特にグレープシードオイル、コーン油、綿実油、大豆油は、リノール酸を豊富に含んでいます。

 

2023年食用植物油脂の脂肪酸組成の調査結果(13)

油の種類

リノール酸含有量

グレープシードオイル

68.7~70%

コーン油

48.6~54.1%

綿実油

53~60.3%

大豆油

52.7~56%

引用:日本油脂検査協会

 

また、紅花油やヒマワリ油もリノール酸を多く含むものがあります。

ただし、リノール酸を多く含む品種から作られたものと、オレイン酸を多く含む品種から作られたもので、リノール酸の含有量が変わるため、商品の表示を見て選ぶのがポイントです。

 

加工食品にも用いられる 

植物油は家庭での調理に用いる他、加工食品にも使われます。

しかし、原材料表示では「植物油脂」と一括りで表示できるため、どの植物の油なのかが分かりません。(14)

そのため、実はリノール酸の摂り過ぎにつながる可能性もあります。

リノール酸を適度に摂取するためには加工食品に含まれる分をしっかりと意識することもポイントになるでしょう。

 

リノール酸を上手に摂る2つのポイント 

リノール酸は人体に必須の成分ですが、摂り過ぎると健康に悪影響を及ぼします。

ここでは、健康維持に必要な量のリノール酸を摂りつつ、摂り過ぎを抑えるための2つのポイントについて解説します。

 

摂取目安量を守る

1つ目のポイントは摂取目安量を意識することです。

リノール酸単独での摂取目安量は設定されていませんが、厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」には、オメガ6脂肪酸全体での摂取基準が設けられています。

 

オメガ6脂肪酸の食事摂取基準(g/日)

引用:日本人の食事摂取基準(2020年版)(5)

年齢

男性

女性

1~2歳

4

4

3~5歳

6

6

6~7歳

8

7

8~9歳

8

7

10~11歳

10

8

12~14歳

11

9

15~17歳

13

9

18~29歳

11

8

30~49歳

10

8

50~64歳

10

8

65~74歳

9

8

75歳以上

8

7

妊婦

-

9

授乳婦

10

 

表にある目安量を意識しながら、油を摂取しましょう。

外食や加工食品の場合は、量の調節が難しいですが、例えば、昼食が外食だった場合は、夕食は自炊にして油の摂取を控えるなど、1日全体の摂取量でコントロールするのがおすすめです。

 

摂取バランスを意識する 

2つ目のポイントは、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸とのバランスです。

例えば、福岡県久山町で行われている疫学調査では、血液中のオメガ3脂肪酸のEPAとオメガ6脂肪酸のアラキドン酸のバランスが1:2くらいまでは、心血管系疾患での死亡リスクが低く抑えられます。

オメガ6脂肪酸が増えると、死亡リスクが高まるとの結果が報告されています。(15)(16)

しかし、近年の日本人は食生活の偏りなどから、オメガ6脂肪酸の割合が高くなっているとされています。(14)(15) 

オメガ6脂肪酸の摂取量を適切にすると同時に、オメガ3脂肪酸を意識して摂ることが重要です。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、オメガ3脂肪酸の摂取基準も設けられていますので、リノール酸などのオメガ6脂肪酸と、オメガ3脂肪酸を総合的に考えて、バランスよく摂っていきましょう。

 

オメガ3脂肪酸の食事摂取基準(g/日)

引用:日本人の食事摂取基準(2020年版)(5)

年齢

男性

女性

1~2歳

0.7

0.8

3~5歳

1.1

1.0

6~7歳

1.5

1.3

8~9歳

1.5

1.3

10~11歳

1.6

1.6

12~14歳

1.9

1.6

15~17歳

2.1

1.6

18~29歳

2.0

1.6

30~49歳

2.0

1.6

50~64歳

2.2

1.9

65~74歳

2.2

2.0

75歳以上

2.1

1.8

妊婦

-

1.6

授乳婦

1.8

 

まとめ 

リノール酸の基本的な知識、健康への効果と注意点、リノール酸を含む食品や上手な摂り方を説明しました。

リノール酸は必須脂肪酸ですが、過剰摂取は体に悪影響を及ぼす可能性があります。リノール酸を上手に活用するには、バランスが非常に大切です。

リノール酸などのオメガ6脂肪酸だけなく、オメガ3脂肪酸の摂取も意識していくことが、健康への近道となります。

ヘルスカレッジ栄養編集チームは、管理栄養士や食の専門家が集まり、最新の栄養情報をわかりやすく、毎日の生活に役立つ形でお届けしています。

私たちの目標は、栄養に関する知識をシンプルに説明し、皆さんが健康的な食生活を楽しみながら実践できるようサポートすることです。

参考文献

References

https://www.health-college.com/article/linoleic-acid